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山口家庭裁判所 昭和63年(家)525号 審判 1988年12月05日

申立人 桜田千代子

主文

本件申立てを却下する。

理由

1  申立ての要旨

申立人は、父谷村良一と母桜田千代子の間に生まれ、父良一の認知を受けた嫡出でない子である。申立人は事実上父の氏を称しているが、昭和64年4月には幼稚園に入園するので、この機会に戸籍上も父の氏を称したい。

よつて、申立人の氏を父の氏「谷村」に変更することの許可を求める。

2  当裁判所の判断

申立人の親権者母桜田千代子、申立人の父谷村良一の審問の結果並びに本件記録中の戸籍謄本その他の資料によると、次の事実が認められる。

(1)  申立人の父良一は、昭和29年5月4日妻英子と婚姻して一男一女を儲けた。父は有限会社○○○○○の代表取締役としてホテルを経営していて、その役員報酬が月額40~50万円と他に手当が月額15万円余があり、このうち妻英子には40万円をわたしている。

(2)  ところが父良一は、昭和50年ころ、事務所の簿記見習いとして雇い入れた申立人の母千代子と情交関係を持つようになり、昭和59年6月23日千代子が申立人を出産し、同年8月13日父良一は申立人を認知した。

(3)  申立人の父良一は、いつもホテルで睡眠をとり、ゆつくり家庭にくつろぐ習慣がなく、毎日申立人の母方に寄り、その後妻のもとに帰り、夕食をとつてホテルに出るという生活の繰り返しであり、申立人の母にも毎月10万円を与え、妻英子と申立人の母の双方に出来るだけのことをしてその生活の安定を図つている。

(4)  この度申立人の母の強い意向で本件申立てがなされたことから、父良一の家族に申立人とその母の存在が判明し、これを知つた妻英子は精神的に動揺し、本件子の氏変更に対して反対の意向を表明しており、また、会社員で年齢30歳の長男三喜男も、自己の縁談のことや、谷村家の長男として申立人が自己の戸籍の隣の欄に入籍することに抵抗があるとして、本件子の氏変更に反対している。

以上認定の事実に基づき判断するに、申立人は婚外子であり、しかも未だ4歳であつて、事実上父の氏を名乗らせていると言うが、未だその使用期間も日は浅く、地域社会で広く一般に通用しているとも思われず、また来春、幼稚園に入園するとのことであるが、申立人の年齢に鑑み当分の間、戸籍を必要とする機会が乏しいと考えられ、現在直ちに氏の変更を許さなければ、その福祉が保たれないという必然性に乏しく、他方父良一の妻や長男が申立人の氏を父の氏とすることに反対しているのであつて、本件氏の変更を考える場合、これら妻子の意向も無視し難いところであり、また、仮に申立人の氏を父の氏とすれば、その反面において申立人とその親権者である母が同居しているにも拘わらず戸籍上その氏を異にすることになつて、この面において申立人の福祉に沿わない結果をもたらすことも予想される。これらの諸事情を比較勘案すると、性急な氏の変更には問題が残り、必ずしも申立人の福祉に適うものとは言い切れず、当分の間、申立人の成長、父良一の妻や未婚の嫡出子の感情の変化などを見定めて、その時点で申立人の成長、父良一の妻や未婚の嫡出子の感情の変化などを見定めて、その時点で申立人の福祉の観点から氏の変更の問題に結着をつけるのが相当であると考える。

よつて、本件子の氏変更許可の申立ては理由がないからこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 大西リヨ子)

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